まず、最初に確認しておきたいのは、それが「本当に無駄吠えなのか?」というところです。
単に、飼い主にとって都合の悪い「吠え」なのであれば、犬にとっては決して無駄ではありませんよね?当コラム内の「犬と暮らす家について 2006-」 3.ペット共生住宅とは何か にこう書いています。
犬は昔から人の側にいて仕事をしてきました。彼らは今も変わらず仕事をしたがっているのですが、人間が彼らに求めるものが変化してしまいました。
飼い主にとって都合が悪い犬の「吠え」をひとくくりに「無駄吠え」とするのは、トレーニングのとっかかりとしてはいささか乱暴です。番犬の役割を少しでも期待しているならなおさらです。「吠え」のきっかけが、音への反応なら音に慣らしていくことを進めつつ、犬をとりまく環境側で、具体的には、住宅の遮音性能を上げていく必要があります。
これは、私が長い間フィールドワークをしてきて思い至った結論なのですが、集合住宅に住む人々は犬のしつけに過大な期待を寄せすぎです。特に犬を飼ったことのない人はすぐに「しつけをしろ!」と言い放ちます。犬は大抵の場合、用事があるから吠えているのです。「しつけをしろ!」と言われた人の犬は、確かに吠えているわけですが、無意味に吠えているわけではないでしょう。これはほんの一例ですが、真夜中に帰宅してガチャガチャと鍵を出し、ドアをバタンと大きい音で閉めるような迷惑な隣人に対して吠えているケースもあります。人間の子供であれば「お互い様」とか、それ以外の想像力が働くものなのですが、犬に関して想像力を働かせてくれる人は少数です。ですから吠える声が大きい犬と暮らす場合には集合住宅は避けた方がいいと思います。犬を飼うには、犬を中心にした生活を送る覚悟が必要です。
ここからは、やや穏やかな話になります。
配達の人が来ると玄関で吠え続けるワンちゃんがいます。荷物を受け取り印鑑を押して要件が済むと配達の人は帰ります。犬も配達の人が帰ると吠えるのをやめます。それは吠える仕事が終わったからです。
犬には配達という人間の仕事が簡単には分かりませんから「知らない人を追い返す」仕事が必要と考えているのです。そしてその仕事は100%達成できるので満足感がありますが、何故か飼い主には誉めてもらえない。それどころか、飼い主は犬が吠えることに怒って、大きい声を出しています。
「親分も一緒に吠えている!だからもっと吠えなきゃ!」
案外、犬はそんな風に考えているかもしれません。
この状態を私は「ポストマン・シンドローム」と呼んでいます。
行動分析学的な記述では、嫌悪的な来訪者を追い払えたこと=負の強化と、飼い主が一緒に騒いでいる=正の強化がおきています。強化されれば行動は続きます。
この悪循環を断ち切るためには、犬が(人間が)無駄吠えをしないようにトレーニングすることが大切です。建築的にはポストマン・シンドロームに陥らないように玄関と犬の居住スペースをできるだけ離して、視界からも外す様にしています。そしてインターホンも取り換えるか、仕組みを変更してしまいます。
あらゆる家庭内のしつけやトレーニングには、それなりの広さやバッファーゾーンが必要です。犬と暮らす家を設計する場合、私は無駄とも思えるくらい、玄関ホールや玄関土間は広くとりたいと思っています。下の図は、簡単なバッファーゾーンのつくり方の例です。
難しいことはなにもありません。犬の居場所がリビングルームだとすれば、リビングルームから玄関ドアが見えるまでに2枚のドアがあるように考えます。このルールを守れば、来客者に対する犬の過剰な反応は、かなり制御できます。