完全室内飼育される猫に対して、私たち飼い主が猫のためにできることは、身体的、精神的に健康で暮らせる住居を与えることです。
限られた空間の中でも、工夫を凝らすことで猫も幸せに暮らしていけます。
そのための「猫的町並み」を実現するにあたって必要となってくるツールが、「5つのエレメント」です。
この記事では、
について解説します。
具体的な例を挙げつつ、わかりやすくお伝えしていくので、猫的町並みや5つのエレメントについてイメージできるようになりますよ。
この記事で取り扱う5つのエレメントとは、米国の都市計画家ケヴィン・リンチの著書『都市のイメージ』から私がヒントを得た、猫のための家を計画するための強力なツールです。
①Path(パス)→道路
②Edge(エッジ)→縁(ふち)
③District(ディストリクト)→地域
④Node(ノード)→接合点・集中点
⑤Landmark(ランドマーク)→目印
ケヴィン・リンチは、都市を構成するエレメントを上記の5つに分類し、整理しています。
これは都市を分析するために考え出されたものですが、新しくできた都市(猫の家の内部空間)を自己採点するのに有用であるとされています。
5つのエレメントが相互に関係していることに気づき、うまく活用することでリンチが都市にとって最も重要な課題と位置付けた「わかりやすさ・見えやすさ」を猫の家に実現できると考えます。
続いて、各エレメントが猫的町並みで果たす役割について解説します。
Path(パス)は、都市計画において「道路」を指します。
例
猫的町並みにおいてこれらと同等の役割を果たすのが、キャットウォーク、猫用階段などの「猫の通り道」です。
パスはおもに移動手段ですが、複数存在するパスの位置や形状によって、パス自体が娯楽装置にもなります。
パスが交差すれば猫にとって進む道を選べることになりますし、パスとパスに段差があれば、ジャンプを伴う運動にもなります。
ここで重要なのが、パスの位置付けは場所ではなく、線状の連続した方向性のあるものという点です。
高い場所への垂直な移動だけでは有効なパスにはなり得ません。
市販のキャットタワーは単体ではパスにはなり得ないことを知っておいてください。
垂直方向への移動にあわせて水平移動できるものこそが、有益なパスということです。
Edge(エッジ)は都市計画では「縁(ふち)」を指します。
言い換えると、通行上の障壁や境界線です。
例
猫的町並みでは、壁やドアなどは線状に存在する境界や障害物です。
エッジは猫の行動範囲を決めるものなので、テリトリーと考えてもよいでしょう。
猫は、爪研ぎによりテリトリーを主張します。
この爪研ぎを行いやすい場所こそがエッジの性質を有しているといえます。
また、エッジは特性上汚れやすいです。
猫と一緒に住む私たちにとっても、ネガティブな印象を受けないために、エッジを綺麗に保つ工夫が必要です。
District(ディストリクト)は「地域」のことで、特定の用途がある場所を指します。
例
これらは猫的町並みでは、日当たりのよい昼寝場所や見晴らし台、窓辺や食事場所、トイレなどに該当します。
複数のディストリクトをうまくパスで結べると、猫が頻繁に活用するようになり、ディストリクトは活性化します。
Node(ノード)は「接合点・集中点」を表し、道路が交差したり集中したりする場所を指します。
集中点のノードはディストリクトの焦点になるため、別々に存在するのではなく、密接に結びついているものとして考えます。
例
これらを猫的町並みに適用すると、1階と2階を結ぶ階段、キャットワークが交差する場所や、猫ステップからキャットウォークに乗り移る場所、多くの猫用通路が1箇所に集まる場所がノードです。
ノードには、猫たちが自然に集まる場の力があります。
複数の猫を飼育している場合、すれ違う猫たちの様子は家庭によっても異なります。
「猫的町並み」のノードにおける猫たちの振る舞いは穏やかであるべきで、その計画には慎重な配慮が必要です。交通整理と言い換えるとわかりやすいかもしれません。
Landmark(ランドマーク)は「目印」を指します。
ランドマークと聞くと、巨大なシンボルのようなイメージがありますが、必ずしも巨大である必要はありません。
例
猫にとってのランドマークは単純に視覚の拠り所になるものにはならないと考えています。
リンチ自身もランドマークについては、感覚的に広範囲に定義され、嗅覚によるものも該当する。と述べています。
私たちの生活を例に挙げてみると、町のカレー屋さんが良い例になります。
カレーのよい香りが漂っていますよね。
このカレーの香りによって、そこはランドマークとして位置付けられています。
同じように猫もカリカリのフードが入れられる音や、フードの匂いによって食事場所がランドマークになっていることが多いと考えています。
しかし、ケヴィン・リンチは、ランドマークは「点」であり、その場に入る必要はないと定義にて述べています。
この部分においては、ケヴィン・リンチの本来の定義から逸脱していることを断っておきます。
家の中で暮らす猫にとって、家の中は「町並み」
それを可能な限り魅力的なものにしたのが「猫的町並み」というわけです。
都市の「わかりやすさ・見やすさ」のことをケヴィン・リンチは、「イメージアビリティー」とよんでいます。
このイメージアビリティーが強い都市は、全ての人に好ましいとされています。
よって、猫的町並みとは、人間と同じように、イメージアビリティーが強い必要があるのです。
次の記事では、実際に5つのエレメントを活かした「猫のための家」の実践へとうつります。
「住居の中に猫的町並みを展開する」シリーズ2/5(2022.08.19)