前記事では、猫的街並みを構成する5つのエレメントの実践編として、③District(ディストリクト)と④Node(ノード)の作成について写真を交えながらお伝えしました。
District(ディストリクト)は、猫が生きていくのに必要な場所や娯楽の空間。
Node(ノード)は、猫的街並みを構成するために必要不可欠な集中点です。
今回は実践編③として、最後の1つであるLandmark(ランドマーク)の作成法と猫の家をつくるにあたって必要なエッセンスだと考える「環境の中の神秘と迷路」をあわせて解説します。
ぜひ参考にしてくださいね。
この記事でわかること
猫的町並みを実現するために必要な5つのエレメントは以下のとおりです。
①Path(パス)→道路
②Edge(エッジ)→縁(ふち)
③District(ディストリクト)→地域
④Node(ノード)→接合点・集中点
⑤Landmark(ランドマーク)→目印
今回は⑤Landmark(ランドマーク)の作成について解説します。
猫的町並みにおけるLandmark(ランドマーク)は、我々が日常に使っている意味と同じで「目印」を指します。
猫的町並みにおけるランドマークの作成について、以下のようにまとめました。
米国の都市計画家ケヴィン・リンチが著書『都市のイメージ』の中で定義したランドマークにはもう少し意味に広がりがあります。
人々の記憶の中に共通して残っているものとして扱い、自らその存在を名乗るようなものではありません。
たくさん存在する「目立つ何か」の中から人々に選択された唯一のものを指します。
方角までも理解できる大きな屋根を持つ建物を第一義としますが、すごく局地的で、ある方向からしか見えない目標程度のもの(看板など)もランドマークとして扱うということです。
住居はそもそも都市の広さを持っていないため、ランドマークが存在しないことにしてしまうか、リンチが認めているように太陽といってしまうのが妥当なのかもしれません。
しかし、私は聴覚と嗅覚を頼りにしたランドマークを採用し、猫にとってのランドマークは「食事場所」と定義したいと思います。
ランドマークとしての「食事場所」は、住居の間取りの中でどこに定めるのが適切なのかを考えていきます。
これまで私が設計した事例では、食事場所を住居の中央に置いた場合、複数の猫は、その周りをぐるぐると回っているような行動パターンをとっているようでした。
また、家の端部、リビングルームから遠い場所に置いた場合は、とくに特徴的な動きはなく、猫は活発に動いています。そしてごはんの時間になると遠くからやってきます。
結論として、猫の活発な動きを見たい場合は、食事場所はリビングルームから遠い場所に設けるとよいでしょう。
穏やかな様子で常に人の傍にいて欲しい場合は、間取りの中央に食事場所を設けるのがおすすめです。
食事場所を変えることで、猫の日常の動きが変わる効果はどの家でも実験できます。
興味がある方は試してみてくださいね。
ランドマークは普段使う意味と同じですが、大きい必要はありません。
視覚的大きさは猫にはあまり効果がないでしょう。
新しく猫を迎え入れる場合には食事場所からスタートすると良いと思います。猫も空間が把握しやすくなるでしょう。
家の中で暮らす猫にとって、家の中は「町並み」です。
それを可能な限り魅力的にした「猫的町並み」は、人間の都市と同じように、イメージアビリティーが強い必要があります。
ただわかりやすく、見えやすいことだけを重要視すると、猫の探索要求や窓の外に何かが偶然横切ったような意外性はなくなります。
つまりは、室内での生活が退屈なものになってしまうのです。
解決策として私はパスを作る際「最初の一歩」を自発的に踏み出すようにデザインを行っています。
猫は室内に存在するパスの全行程を完璧に覚えているわけではありません。
進んでは止まり、進んでは止まりを繰り返しています。
慣れてくれば、止まる時間が短くなりスムーズに動いているように思われますが、基本的には何度も「最初の一歩」を繰り返しているのです。
そのような理由で、最初の一歩を踏み出す動機となり、好奇心の源ともいえる「神秘や迷路や意外さ」が住居の中にも必要だと考えています。
トンネルや隠し扉、意外な場所から差し込む太陽の光。
それが作り出す影やどこからか聞こえてくる鳥のさえずり、雨の音など。
次々と猫の興味をひくように家が造られていれば、飼い主と一緒に遊ぶ時間はきっと楽しくなるでしょう。
キャットタワーがぽつんと置かれている家では、家族が遊んであげたとしても退屈な住まいの領域から抜け出せません。
猫の探索欲求を尊重するのであれば、環境の中に、猫にとっては意外に思えるような「神秘と迷宮」があってもいいのですが、簡単にはいきません。
ケヴィン・リンチも神秘と迷宮に一定の価値を見出しながらも、その存在を危険視しています。
なぜなら基本的な形態や方向性を見失う危険性があると、そこから抜け出せなくなってしまい、猫に混乱を招いてしまうのです。
猫のためを想って作った環境が反対に猫にストレスを与えてしまう可能性もあります。
何か特別なギミックを住居内に作る際は、猫が理解できるような形態を備えておくべきでしょう。
以下に示すのは「住吉山手の家」で実際に作った迷路のようなものです。
全てに安全装置がついており、猫が不安になることはないと考えています。
ここは急に狭くなる場所で、キャットツリーを用いたトンネルのようものです。最初は怖がっていましたがよく遊んでいます。
1階のキャットウォークが行き着く先は和室なのですが、猫が丈夫を歩くことができる吊り収納のには穴が開けられていて、さらには内部に階段上の足場があり、猫は内部を上下動できますが、行き止まりになっています。
猫と住む家を実現するにあたり、これまで紹介してきた4つのエレメントと最後の1つである⑤Landmark(ランドマーク)は、どれも密接な関わりを持ちます。
これまで5つの記事に渡り、猫のための家を作る背景から猫的街並みを構成する5つのエレメントの実践編までお伝えしてきました。
室内飼いの猫にとって、住居内は町並みです。
私たち飼い主は、猫のために住居の中に魅力的な町並みを作ってあげることで、これからもよきパートナーとして一緒に暮らしていくことができます。
「住居の中に猫的町並みを展開する」シリーズ5/5(2022.08.19)